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タクシーの運転手さん。

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 昨年(2019年)もう一生分の帰省をしたくらい頻繁に実家に戻っていた。空港までは交通の便が極めて悪いため毎回タクシーで空港に向かっていた。ある運転手さんが「また戻ってこられたんですか?」と声をかけてくれたことがあった。「はい、母親が認知症で色々とあるんです」と答えると、運転手さんの母親も認知症だった話をしていただいた。「今どんな状態ですか?」と聞かれたので一連の出来事を話すと「まだまだ軽いですよ。それよりも週3回透析から帰ってお母さんの相手をするお父さんの方が心配ですよ。透析から帰ってくるとマラソンを走ったくらいにしんどいはずですよ」と話してくれた。
 「次は徘徊が始まります。それからトイレが出来なくなります。食べるものも、白ご飯だけとか食べないとか、栄養失調が認知症にはものすごく悪いらしいんです。うちの母は徘徊が始まってタクシーでどこかに出かけて警察から電話がかかってくるなんてしょっちゅうでしたよ。トイレの問題が出てきたらもう施設か病院に入るしかないです。そこで徘徊の問題で追い出されたら〇〇にある老人施設に行くしか選択肢がないんです。そこは徘徊がひどい患者は拘束します。〇〇に行ったらもう帰ってくるときは死んだときです。うちの母がそうでした」
 知識としてはわかっていたものの、母親がこれから進んでいく未来にはこんなことしかないのか。幸いなことにまだ徘徊は始まっていない。しまったものがわからない、時折感情的になる、話のつじつまが合わない。今はそんな症状しか見ていない。大好きだった本も読まなくなったし、趣味もない。旅行に連れて行っても記憶がない。楽しんでいないように見える。せめてもの救いは昔の記憶が残っていることだ。
 もう時間がない。そう思うようになった。母親が好きそうな和菓子やサザエさんの文庫本を妻と一緒に捜し歩いて送ったり、きれいな花やポストカードを定期的に送ったりした。ただ、それは物置の中にゴミのように置かれることが多くなった。たまに実家に戻って良かれと思いやったものや買ったものが、次に帰ると捨てられていたり片づけられていることが多くなった。それは何を意味するものなのかは分からない。新しいものは片っ端から押し入れや廊下に追いやられていった。
 母親の姉の長女に話を聞いた時には、デイサービスも介護も全然受け付けなくて、家族が大変苦労したが、娘が誰かわからなくなり始めたころにはすんなり施設に入ったよ。とのこと。「最終的には施設」それも認知症がひどくなってから受け入れてくれる施設は少ないこともわかった。同じ話をくりかえすようになったのが7年前、明らかに深刻になったのが3年前。そして去年。
 運転手さんは「良いと言われるものは何でもやった」と話していた。楽器、カラオケ、塗り絵、油絵、漢方薬、亜麻仁油、しかしどれも無駄になったと。うちの両親の場合は外部との接触、他人との会話がほぼないので、余計に気が滅入るしフラストレーションがたまるのだろう。食事も母親にはもう無理なので、卵かけご飯を昼に食べてそのまま一日を家で過ごし寝る。そして次の日も。この10年、恐らく両親は気が遠くなるような時間をそのように過ごしてきたのだろう。
 病に倒れ、あと何年、、という状態でもない。できれば残りの人生を穏やかに少しは楽しみをもって過ごしてほしい。だが私は東京にいるから経済的にも時間的にもそれを叶えることはできない。「いっそ仕事を辞めて、、、」そんな考えが頭をよぎる。それが出来れば少しは両親の生きがいを作れるかもしれない。弟家族に当時は全く期待していなかったしできなかったのでそう考えるしかなかった。そのうちに自分のことよりも実家の両親のことばかりを考えるようになってしまった。
 そのタクシーの運転手さんとは、その後も数回一緒になった。会うたびに母親の状況を話すことになり、「まだ軽いもんですよ!」と励ましていただくことになった。

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Commented by うさぎ at 2020-02-27 21:26 x
 徘徊もトイレのやり方を忘れるのも、皆がそうなるわけではないので今から悲観しなくて良いと思います。
 トイレの場所が分からなくなり間に合わなくて失敗する時は出てくるかもですが、その時は工夫する知恵が色々あります。

 弟嫁さんが「あれ最近どう?」みたいな言い方したのは、お母さまを「あれ」呼ばわりしたのではなく、お母さまの認知症の症状を指して「あれ」といったのではという気がします。

 遠距離で大変ですね、もう今まで充分親孝行されてます。ご両親は跡取りの兼業農家さんでずっと頑張ってこられた立派な方々です。きっとそんなに事態は悪くなる一方ではないと思います。


Commented by groupf at 2020-03-02 16:11
> うさぎさん
ありがとうございます。離れて見えていない部分が多いため、おっしゃることのように誤解もあるかと思います。コメントありがとうございました。できる範囲でしかできないことが最近よくわかってきました。
by groupf | 2020-02-26 14:05 | 回想 | Trackback | Comments(2)

母親の認知症を取り巻く家族の記録。


by groupf
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